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2022-10-31

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリング

それでは続きまして、本題であるご依頼品の紹介に参ります!

今回のブログから読み始めてくださった方には何のことやらですよね。もしまだ前回のブログをお読みでない方はこちらからご覧くださいませ。

英国王室内のシグネットリングとロイヤルサイファー

なぜ前回のブログでロイヤルサイファー(モノグラム)について触れたかと言いますと、世間的にモノグラムがカジュアルに捉えられ過ぎてしまっているような印象があったからなんです。

シグネットリングに関して言えば、KUBUSのように各ご依頼ごとに手彫りするデザインを新たに作成するというスタイルを採っている所はあまり多くないようで、事前に用意されたフォントの中から選べるに留まり、そのフォントのアルファベットを並べて「はい、モノグラムです」というのが多数な印象があります。ましてや、新たにデザインするだけでなく、そこに意味を込めるなどというのはかなりの少数派。そりゃデザインの作成には時間も手間もセンスも必要ですし、それを手彫りするとなると今まで経験したことがない技術が必要になることなんてしょっちゅうだから、なかなかそこへ踏み込めないというのも頷けます。

ですが、それではモノグラムひいてはシグネットリングが本来持つ効果が薄れてしまうような気が僕はしています。これはデザインへ意味を込めて作成していなければモノグラムではないというように狭義に捉えてのことではありません。むしろ、なるべく広くその意義を捉えたとしてもそう思ってしまうのです。

例えば、込める意味云々は横に置いて完全にデザイン性に振り切ったものだとしても、その独自性にこそモノグラムの意義があるはずです。『シンボルを形成するもの』というモノグラムが持つ根幹の部分が揺らいでさえいなければモノグラムとして存在をし得て、そしてそこには自由でのびやかな芸術の世界が手を広げています。それなのに、”効率”を追い求めるあまりモノグラムとしての意義を見失ってしまうのはあまりに勿体無い。

街を歩く時、お店の看板に注目をしてみると面白いですよ(^^)街にはモノグラムが溢れています。様々なお店が独自性を表現するために多種多様なモノグラムを採用しているのを見つけられるかと思います。

前回のブログで紹介をしたように、モノグラムとほぼ同義であるロイヤルサイファーは「紋章院」がデザインを作成しています。つまり、モノグラムと紋章というのはかけ離れた世界にいるのではなく、どちらも独自性を有する重要なシンボルであるということにおいて共通するものなのです。

KUBUSではシグネットリングに彫刻を入れたいとご検討中の方々のために、『紋章の手彫り彫刻”Heraldic engraving”』に並んで『モノグラムの手彫り彫刻』というページを用意しています。

ここでは、モノグラムデザインの方向性を大きく5つに分けて紹介しています。

  1. 筆記体をもとにした流れるようなデザイン
  2. 比較的シンプルなデザインのアルファベット+植物等のモチーフや模様
  3. 紋章のようなデザイン
  4. 紋章のようなデザイン+模様やモチーフ
  5. 漢字のデザイン

このうち⒊と⒋には『紋章のような』という文言を用いていますが、これは先述の通り紋章彫りもKUBUSでは行なっているため、あえて紋章”のような”という表現にしているだけで偽物の紋章ということでは全くありません。写真をご覧くださればお分かり頂けるかと思いますが、かなり細かいデザインのモノグラムも多く、デザインを作成する際はもちろん、手彫りする時も紋章と同じく高い彫刻技術が求められます。

公的な機関である紋章院であってもモノグラムを扱っているように、シグネットリングにおいても紋章と並んでモノグラムはその着用者の方を表す独自性を持った重要な存在であるということが伝わればとこのような事柄について書いてみました。

そして、今回のブログで紹介をさせて頂くオーダー品のシグネットリングも紋章に引けをとらない独自性と意味を秘めたモノグラムを作成し彫刻させて頂きました。

ご依頼を頂いたのは「Brass×Silver Combination Signet Ring」。通称”コンビ”(僕が裏で勝手に呼んでいるだけですが。笑)です。

この「コンビ」、銀板からパーツを切り出し、叩き、曲げ、溶接をして作ったシルバーの土台に真鍮製のフェイスをビシッとはめてこれまた溶接して制作するという、少しばかり特殊な製法のシグネットリング。

随分前に撮影した映像ですが、こちらの動画をご覧頂くとその製法の面白さが伝わるかと思います。

こうしたシグネットリングとしては特殊な製法であっても、フェイスサイズもご希望に合わせて制作させて頂くことができます。

そのフェイスサイズや号数をご検討頂くために、リングゲージ(号数採寸道具)とサンプルとなるシグネットリングでお試し頂くところからスタートしていきました。

街のジュエリーショップでも号数の計測は可能ですが、季節や時間帯や体調によってどうしても指の太さというのは変動をしてしまうのが難しいポイント。そこで、ご自宅でじっくり採寸をして頂けるようにとKUBUSではリングゲージの貸出も行なっています。

その結果、フェイスサイズは「13mm×11mm」、号数は「10.75号」で制作させて頂くことに決定。こうした間のさらに間のような号数でも制作が可能なのは、オーダーメイドで尚且つ手作業である強みの一つです^^

加えてどのようなモノグラムがお好みかも伺ったのですが、それは後ほど紹介しますね!

秘伝の製図方法で弾き出した形に銀板を切り出し、叩いたり曲げたり溶接したり。その後はヤスリで各部を作り込んでいきます。

そして、フェイス部分にビシッと合うように真鍮を切り出すと、、、。

土台の造型作業とフェイス真鍮部分切り出し完了

(もっと制作工程の最初の方から写真をお見せしたかったのですが、夢中になっていたのか撮影を忘れていました。ショーック!!!笑)

今回はシーリングスタンプとしてもシグネットリングをご使用されたいとのオーダーのため、深めの彫刻が必要。そこで、普段のコンビよりも厚みのある真鍮フェイスを採用しました。

フェイスの溶接も完了したら随分とシグネットリングらしくなってきました♪

フェイス部分真鍮ロウ付け完了

くるっと回すと裏側に秘密が。

フェイス裏kubus署名の彫刻が行われた状態

フェイス裏にはこの製法ならでは、kubusの署名を手彫りしました。

時々『KUBUSのシグネットリングは裏抜きしていますか?』というお問合せを頂くことがあります。(裏抜き=必要な金属量を減らすために主にフェイス裏を削ること。)

ご依頼品をあらゆる角度から撮影した写真を掲載しているGalleryページにあるように、KUBUSでは裏抜きを行なっていません。このブログで今まさに紹介しているコンビシグネットリングに関しては製法上フェイス裏にスペースが生じますが、「単にそのままにしておくんじゃ裏抜きしてるみたいで何だか寂しいじゃん」と、僕の遊び心で”kubus”と手彫りで署名を入れています(^^)

全体を研磨して滑らかにしたら、さぁ彫刻台へセット。

彫刻台にセット

ご提案していたモノグラムを下書きしていきます。手彫りさせて頂くモノグラムデザインはこちら!

KFモノグラムデザイン下書き

ご依頼くださった方から伺ったゆかりのある様々な事柄の中からストーリーを立てながらモノグラムを作成させて頂きました。

「KF」と「ブドウのツタが絡んだ楡(ニレ)の木」、「ブドウの葉」、そして「ハスの花」を組み合わせて作成した”紋章のようなデザイン”のモノグラム。

ご依頼くださった方の直向きな姿を「ブドウのツタが絡んだ楡の木」と「ブドウの葉」に、直向きでい続けるためには気分転換も時には大切だということを忘れないように「ハスの花」を。そして、その自然な雰囲気に合うように「KF」を描きました。

※反転彫りでのご依頼のため、作成したモノグラムを反転させてシグネットリングへ下書きしています。

それでは、手彫り開始!

彫刻中はこんな姿です。

彫刻中の様子

手元のアップの写真をご覧頂くとどれくらい細かい作業なのかが伝わるかな。

彫刻中の手元のアップ

身体がまるで紋章を彫刻した時のような疲労感に満たされた時、意味を込めて生み出したモノグラムに命が宿ります。

KFモノグラム彫刻完了

反転彫りなので、スタンプをすることでその全貌が分かります。

KFモノグラムスタンプ

仕上げ磨きをしたら遂に完成です!!!

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリング完成写真1

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリング完成写真2

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリング完成写真3

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリングのシーリングスタンプ

オーダーくださったFさま、この度はご依頼本当に有難うございました!「小さいのに緻密、期待を上回っていてかっこいい!!!」とのお言葉すごくすごく嬉しいです。実はモノグラム作成時、デザインとしての纏まりがなくなってしまうといった印象とはまた違うレベルの感覚でブドウの実を描くのをやめたのですが、あまりにも漠然とした感覚であったため自分ではそれがなぜか分からないままでした。ですが、Fさまから『増えていく傷とともに、葡萄に果実を実らせるつもりで成果を出していきたいと思います』とのお言葉を頂いてハッキリと分かりました。制作をさせて頂いている時点で、このモノグラムにおける成果を表す果実を描いてしまうのはおこがましいのではないかという感覚が潜在的にあったからなのだと。

仕上がってからハッと気付かせてもらえたFさまのお言葉を借りて、このブログのタイトル「増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリング」とさせて頂きました。

お送り頂いたこれまた素敵なご着用写真を皆さんにもお裾分け。

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリングご着用写真1

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリングご着用写真2

増えていく傷と共に果実をつけられるようにと願いを込めたシグネットリングご着用写真3

今回はブログを二記事にわたってお送りしておりますが、えー実はですね、これで「それではまた!」とはまだならんのです。笑

まさかの大サプライズのご連絡を頂きました。その写真がこちら!

K&K&Fご着用写真

もしかすると写真だけでは分からない方もいらっしゃるかもしれませんね。

なんと!シグネットリングの上に重ねて着用されているのは小人工房作品である土目リング!!なんとまぁ。小人さんと僕はまだ会ったことはないのに、作品同士が先にご対面。照 それもなんと小人工房とKUBUSそれぞれにご依頼をくださった方のお手元で。

いやー。こりゃやられましたな。僕たちの知る限り世界初・宇宙初です。こんなサプライズを用意されていらっしゃったなんて、うー。ニクイッ!!!笑

嬉し過ぎて変になっちゃいましたけれども、それだけ嬉しいのです。嬉し過ぎて小人さんと不定期で行なっている先日のK×Kラジオでも二人で喜びを噛み締めてしまいました(嬉しいしか言ってない。笑)

たまたまリアルタイムで収録しながら公開していたので、そのラジオにFさまもお越しくださり3人でニヤニヤできました(*^^*)

真面目な顔に戻りまして、本当に本当に有難うございます!小人さんの言葉も借りて「あざます!」

この最高に素敵な物語について小人さんアングルでもブログを書かれていますので、是非ご覧ください。→『小人工房ブログ:やさしい世界を創る⑨

こちらの小人工房ブログの中で以前のKUBUSのブログ『ご夫婦のイニシャルを組み合わせたモノグラムを刻んだペアシグネットリング』の中で書いたことについても触れてくださっているので、まだ読んでないよーという方はこちらも併せてどうぞ。

いつもそうですが、書ききれない想いはやっぱり書ききれない(何だか小泉進次郎語録みたいですね。笑)ので、そろそろ結びに向かおうかと思いますが、最後に一つだけ。

僕はいつもご依頼をくださった方(プレゼント用でのオーダーであればそのお相手も)を感動させたい、感動まではいかなかったとしても何かポジティブな方向へ心を動かしたいという想いで制作をさせて頂いていますし、メールでは表現しきれない感謝の気持ちをこうしてブログに綴っています。そのせいで多くの方から大変に有難いご感想のメールやお便りを頂いているにも関わらず返信ができずにいることを日々反省していますが、やっぱりブログに写真と共に気持ちを乗せて届けたい。それくらいガンガンに心剥き出しでKUBUSしてます。それはやっぱりご依頼をくださった皆さんを喜ばせたいから。そして、それを通して自分自身も感動をし続けたいから。

KUBUSは”本当のシグネットリング”を創り続けていきます。KUBUSの姿勢に魅力を感じてくださる方々と制作させて頂けるのをこれからも楽しみにしています。


KUBUS 斎藤

【Gallery】Hand Engraved Brass×Silver Combination Signet Ring「KF+ブドウのツタが絡んだ楡の木+ブドウの葉+ハスの花」

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