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2024-02-26

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング

こんにちは。KUBUSの斎藤です。

先日、制作の合間を縫って展覧会へ行ってきました。今回向かったのは『特別展 本阿弥光悦の大宇宙』。

本阿弥光悦展へ行った時の写真

詳しくは展覧会HPの説明をご覧いただければと思いますが、物凄くザックリと本阿弥光悦を一言で表すのなら”ハイパーマルチクリエイター”。現代では、自らの手で作らずアイデアさえも借用する名ばかりのマルチクリエイターが蔓延っていますが、彼は正真正銘の本物。あらゆる分野の芸術に携わり、生み出し、そして育てた人物です。

本阿弥光悦の存在を知ったのは、創り手仲間の小人工房さんから教えていただいたのがきっかけで、それから気になって時々調べていたところに今回の展覧会開催の情報が舞い込んで来まして、これは!と思いワクワクしながら行ってきました。

本阿弥光悦に限った話ではありませんが、この目で間近に作品と対峙した時のインパクトはインターネットや本で見た時のそれとは比べ物になりません。強烈でした。作品の分野が多岐にわたるその幅広さはもちろんのこと、何をやっても”光悦流”になってしまう強烈な個性が作品に深みを与えているように感じました。

作品の一つ一つに秘められた遊び心と言いますか、「俺はこんな遊び方もできちゃうぜ」みたいな、そうした自由でのびのびとした芸術の本来あるべき姿がそこにあるような気がして、僕は本阿弥光悦のそうした姿に最も感銘を受けました(本当に自由に遊ぶようにして制作をしていたのかは分かりませんが、頭ではなく心でする芸術鑑賞は最高に気持ちが良いものでした)。

本阿弥光悦展によって芸術の力を浴びたいモードのスイッチを押されてしまった僕は、以前のブログ(『ご結婚指輪としてのシグネットリング』)の中で遠足報告をした<ゴッホと静物画ー伝統から革新へ>にもまた行ってきました。

やっぱり芸術は良いですね。原田マハさんの小説の中の登場人物のセリフだったかご本人のお言葉だったか忘れてしまいましたが、『美術館に行くのは友達に会いに行くような感覚(文言は違っているかもしれませんが、このような意味合いの言葉だったと思います)』というのは僕もまさにその通りだと感じています。

一般的な時間軸とはまるで違う生活リズムで過ごしていますし、芸術を生業にしているくらいですから自分では分かりませんがきっとどこか変わっているのでしょう、友達も少ないですし、間に芸術を置かなければ上手に話ができません。笑 そんな僕を包み込み理解してもらえているような感覚になれるのが美術館です。彼らの喜びや痛みに触れて自分のことのように共感してしまう度に、会ったことも話したこともない彼らを友達のように身近に感じます。

みんなが生きる世界で何とか自分も生きていくために、とんがった能力を更に増幅することで自分を守ったり、足りないところを極端にすることで武器にできるのが芸術家であり、そのようにして「ここに私もいるぞ!」と上げた声が形になったのが芸術作品なのだと思います。

KUBUSのシグネットリングを手にした方々にもそうした芸術の力を感じていただけていたら嬉しいですし、これからも直向きに創り続けていきます。

またまたオープニングトークが長くなってしまいましたが、本題であるご依頼品紹介へ参りましょう。

今回紹介をするのは、人生を切り拓いていくお守りとしてご依頼を頂いたシグネットリング。人生の節目を迎えられ、その記念にとKUBUSにお声掛けいただきました。

打ち合わせにあたって、遠方からわざわざ工房へお越しくださりました。いつもそうですが、普段あまり人と会わない僕は、ご来訪いただくと嬉しくなってついいつも沢山話してしまいます。汗

今回制作させていただくのは「形状:Ovalシェイプ(フェイスサイズ:13mm×11mm)」、「素材:K18YG」に決定。もちろん彫刻についてもご希望を伺いましたが、詳しくは後ほど。

まずは例によって造型作業を完了した写真からスタートです。

造型作業を完了したシグネットリング_正面から

造型作業を完了したシグネットリング_斜め上から

このシグネットリング本体の造型作業と並行して行うのがモノグラムデザインの作成です。今回はご依頼くださった方のイニシャル「HT」と「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」を組み合わせて”紋章のようなデザイン+模様やモチーフ”(『モノグラムの手彫り彫刻』内④のデザインの方向性)のモノグラムを作成させていただきました。

「天叢雲剣(またの名を「草薙の剣」)」は三種の神器の一つで日本神話の中に登場する剣です。生憎日本神話について明るくない僕ですが、有難いことに工房での打ち合わせの際に資料を頂けたので、それを起点にあれこれと調べていくところからスタートしていきました。デザインを描くためにはその対象が何なのか知っていなければいけませんからね。

とは言っても、天叢雲剣それ自体がどんな姿をしているかは知り得ないんです。日本神話の中でどのような役割を持つ剣なのかは調べていくと分かりますが、剣自体について詳しい記述がある訳ではないため、一般的な総意としてこんな姿だろうとされているイラストやその他解説等を調べてみて、”天叢雲剣の平均的な形状”を知ることしかできません。

確かにそれは知識として頭に入れるのには壁となりますが、デザインとして表現をする際にはかえってそのおかげで自由に表現できるといった側面もあります。それなら最初から調べなければ良いと思う方もいるかもしれませんが、それでは僕は描けません。知りもしないのに好き勝手にやるよりも、ある程度知識をつけた上で自由に表現する方が息苦しさを感じないと言いますか。

感覚的な話なので分かりにくいかもしれませんが、とにかくそうした下調べを行った上でモノグラムを描いていきました。

もちろん、「天叢雲剣」の見通しが立つだけではいけませんから、ご依頼くださった方のイニシャルをどのように描き組み合わせていくか、そして伺っていた想いをモノグラムの中でどのように表現していくかも考えながら。

そうして描けたデザインをご提案し、『このデザイン以外考えられない!』との最高に嬉しい合格通知を無事に頂けました^^

それでは、いよいよ彫刻のためにシグネットリングへ下書きした写真で皆さんにもその姿を、、、と言いたいところですが、下書きはザックリと全体の位置関係を捉えるためのものなのでまだ朧げな姿を。

「HT+天叢雲剣」モノグラム下書き

一手一手彫り進めていきます。
「HT+天叢雲剣」モノグラム_手彫り途中の様子

機械彫りでもなければ、手彫りであってもコンプレッサーの力を借りるようなやり方でもない、完全人力手彫り彫刻なKUBUSですから時間がかかりますが、こうしたクラシックな技法だからこそシグネットリングに妖しいオーラが宿ります。(各種彫刻技法について紹介をしたブログも以前書いております。よろしければこちらも併せてご覧ください。『笑顔を生むシグネットリング』)

よし、彫れました。

「HT+天叢雲剣」モノグラム_彫刻完了_正面から

「HT+天叢雲剣」モノグラム_彫刻完了_斜めから

実はデザインをご提案した際に、周囲に余白を残して彫刻をして欲しいとのご希望を伺ったため、周囲に0.5mm程度余白を設けながら彫刻をしていきました。これはフェイスが縦横1mmずつ小さくなったのと同じことですから、「13mm×11mm」が「12mm×10mm」になったようなもの。ただでさえ細かい装飾の入ったデザインですから、これはなかなかシビれるご希望を頂いてしまったなと思いつつ、自らの彫刻技術を試せる絶好のチャンスとばかりに張り切って彫刻させていただきました。

デザインが一回り小さくなったことによって窮屈そうな見た目になってしまいやすいところ、それを感じさせない堂々とした姿に彫刻することができました。

スタンプをするとデザインの全貌がより分かりやすくなります。

「HT+天叢雲剣」モノグラム_彫刻完了_スタンプをした様子

「HT+天叢雲剣」モノグラム_スタンプ_斜めから

「HT+天叢雲剣」モノグラム_スタンプ_正面から

このブログのタイトルには『人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング』と名付けましたが、「切り拓く」と言っても、それを腕っぷしの強さによって力づくで突き進んでいくような筋肉質な強さで表したくありませんでした。それはご依頼くださった方とお会いした時やメールのやり取りから感じていたお人柄からかけ離れた姿になってしまうと考えたからです。「天叢雲剣」がそうであるように、秘められた強さをモノグラム全体で表現するべくデザインを作成していきました。

「天叢雲剣」はデザイン作成前に行った”天叢雲剣の平均的な形状”の調査結果を踏まえつつ、シグネットリングに彫刻することを考えて西洋の剣のような雰囲気も入れ、「天叢雲剣」を内側に秘めるように「HT」には線に太さを持たせることでどっしりとさせ、加えて左右対称にして静的な印象になるようにすることで芯の強さや意志の強さを表現し、また、それによって堅苦しいデザインになってしまわぬようバランスを取るために模様や飾りも入れました。

以前、インスタグラムに短い動画を公開していたのでそれもせっかくだからチラリ。

仕上げ磨きをしたら遂に完成です!!

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング_完成写真

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング_完成写真2

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング_完成写真3

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング_完成写真4_裏面ロゴ

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング_完成写真5_裏面家紋入れ

フェイス裏への家紋入れ(機械彫り)もご依頼いただいていました。

なんと、お受け取りの際にも工房へお越しいただきました!有難い。

「ようやくここまで来ましたね〜」とお互いを労いながら制作中のあれこれについて話していたらご着用写真を撮影させていただくのを忘れてしまっていました、、、。完全に舞い上がっちゃってたな。汗 でも、心に焼きついていますし、シグネットリングとのご対面の際の笑顔が何よりの宝物です。(んー、でもせっかくなら撮影させていただきたかったー!!!笑)

<2024年3月8日追記>SDカードを見返していたらちゃんと撮影させていただいていました。笑 うん、やっぱり舞い上がっていたみたいです。汗 ということで、そんな高揚する気持ちの中で撮影させていただいたご着用写真をみなさんにもお裾分けです。

人生を切り拓いていくお守りとしてのシグネットリング_ご着用写真

ご依頼くださったHさま、この度は本当に有難うございました!『時間はいくらかかっても構わない』と制作者である私を信頼してお任せいただけたおかげで、気持ち良く制作に取り組むことができましたし、目一杯の拘りを詰め込んで表現をさせていただくことができました。制作させていただいたシグネットリングが、これからの人生のお守りとしてHさまの力強い相棒になれば嬉しいです。

それでは、また次回のブログでお会いしましょう。最後まで読んでいただきありがとうございました!


KUBUS 斎藤

【Gallery】Hand Engraved Oval Signet Ring(K18YG)「HT+天叢雲剣」

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