愛と技巧のペアシグネットリング
こんにちは。KUBUSの斎藤です。
ブログの冒頭ではオープニングトーク的に日常の僕が気になったことなどをお伝えしていますが、今回は一つおすすめの映画を紹介しようかなと思います。
その映画と出会ったのは去年11月。KUBUS製品の限られた取扱店の一つ、広島県のイケてるテーラーショップ『The My Way』さんへ毎年恒例の周年祝いのために出張へ行った時でした。
周年パーティー当日の夜はお祝いをしにお店へ伺った後、テーラーの清水さんと朝方までお互いの夢について語り明かし、その幸せを噛み締めたまま数時間の眠りにつきました。
目が覚めるともうすぐチェックアウトの時間。この日も清水さんと会う予定がありましたが、それまではあと数時間。もう昼近いというのにドッシリと重たい眠気がのしかかってくるので、どこかで寝て時間を潰そうと”付近 仮眠”、”付近 ネットカフェ”等々で調べてみましたが、んーなんだかしっくりくる場所がない。
そこで閃きました。「もういいや!ストーリーなんてどうでもいいから丁度いい時間にやってる映画の上映中に寝ちゃえ」と。笑
そして、今度は”付近 映画館”で検索して上映スケジュールを見てみると、、、ビンゴ! 滞在しているホテルの近くに数十分後から上映開始の回を発見しました。しかも良い雰囲気の映画館で気持ち良く寝れそう。(すんません、この時は本当に眠たくてそれ以外に何も考えられなかったのです。汗)
映画館に到着し、チケットを購入。まだちょいと上映まで時間あるし、その映画のフライヤーでも見てみようかしらと手に取って読んでいたら見事に引き込まれてしまいました。いえいえ、睡眠にではなくその映画の世界に。
映画を観る前からここまで引き込まれてしまう経験は、今まで数える程度しかなかったような気がします。だって観る前にパンフレット買っちゃったくらいなんだから。
眠気なんてすっ飛びまして、完全に映画を全力で楽しむモードに突入です(実は僕、映画大好きっ子なのです)。売店で映画の雰囲気に合わせてホットの紅茶を買って、ふ〜ふ〜しながらいざ。
エンドロール後にフワッと明かりがついた後に訪れる、素晴らしい映画を同じ場所同じ時間に味わうことができた見ず知らずの人たちとその幸せを共有できているあのホクホクな空間。「これこれ。出会っちゃったよ。最高じゃん。」
さっきまで一緒にホクホクしていた皆んながパンフレットを買うために並んでいるのを横目に、僕はスキップしながら劇場を出ました。上映前に買っていたパンフレットを片手に抱えながら。(本当にスキップしちゃったんです。笑)
その映画というのがこちら。
『スペンサー ダイアナの決意』(https://spencer-movie.com/#modal)
映画好きですが、評論ができる程の知識も文才もありませんから、キャストがどうとかストーリーがどうとか細かいことは何も言いません。
自分を愛し、人を愛し、人に愛されるということはとても美しいのだと教えてくれるような映画です。そんなの当たり前だと言われてしまうかもしれませんが、それくらい純粋な映画です。とにかく良かった。自分が何を大切に生きていくべきか見失いそうになった時、助けを求めるようにして観る映画がいくつかあるのですが、その一つにこの映画がなってくれるはずだと感じています。オススメです。
さてさて、オープニングトークが長めになってしまいましたが、そろそろ本題へ。
KUBUSではよく「シグネットリングは愛の指輪だ」と言っているので、あえてタイトルに入れていなくともそうなのですが、今回のブログで紹介をするシグネットリングではそれを直接的に表したこともあり、今回のブログのタイトルは『愛と技巧のペアシグネットリング』と銘打ってみました。
ご依頼をくださったのは、僕がシグネットリングを作り始めて間もない時からKUBUSを応援してくれている二人。
飲食店をされているお二人なので、いつも会うのは僕がお店に遊びに行った時でしたが、シグネットリングを制作させてもらうにあたって、お二人には工房までお越し頂きました。
普段とは違う場所で会うのと、いつもお店で見せるただの若造とはちょいと違うKUBUSモードの僕を見せることに少しばかり照れくささを感じながら、お二人のご希望を聞かせてもらったり、KUBUSの制作現場を紹介したりと、楽しく打ち合わせをさせてもらいました。
そして、制作させて頂くこととなったのが「Oval Signet Ring(Silver925)」「手彫りモノグラム彫刻「TS」”紋章のようなデザイン+模様やモチーフ”」。
ただ、同じOvalシェイプでも女性用は「13mm×11mm」男性用は「15mm×13mm」とフェイスサイズを変えて、よりお二人の雰囲気と手の大きさ等に合うようにしていくこととなりました。
それを形にしたのがこちら。
時々、「シグネットリング自体はどこかから買ってきて、そこにモノグラムなどを彫ってるんですか?」と聞かれることがあって腰抜かしそうになるんですけれども、シグネットリング本体ももちろんKUBUSで制作しています。そんなこと聞かなくても分かるでしょと思っているのですがいかがなもんでしょう。笑
きっと、手彫りで彫刻を行っていて、そのデザインもオリジナルで各ご依頼ごとに作成しているというのがどうしても目立ちやすいから、シグネットリングそれ自体もKUBUSで制作していることが陰に隠れてしまいやすいのかもしれませんね。ブログだって、今みたいにポンと「はい、造型が完了しましたよ〜」と写真を出しちゃうからそう思われても仕方ないか。笑
でも、「くびれの始まる地点をコンマ数ミリ前にすることでこうなりました!」とか「この部分の角度をこうすることで全体の繋がりが良くなるようにしました!」みたいなことを書いたってきっと伝わらない。汗 ビフォーアフターの写真を載せたって、写真じゃ分からないくらいの違いしかないようなところにこそ拘ってたりするから、言えば言うほど混乱させてしまうし邪魔くさくなってしまう。
だったら彫刻というビフォーアフターでハッキリとした違いを見せられるところに盛り上がりを持ってきた方が面白いのではないかと思いまして、あまりシグネットリング本体の制作に関して多くは語らないようにしています。
実は彫刻に関しても拘り全部ボロりと出したら恐ろしく長く語れちゃうけど、何でもかんでも説明するのは野暮ったいし、理屈っぽくて読んでいて楽しくないブログになってしまうから、そこもあくまである程度サラッとやってるように見せてます。
ほらね、こんなこと言うのって格好悪い。あー嫌だ嫌だ。でも、彫刻だけやってる人みたいに言われることが最近ちょこちょこあるもんで、一発反論しておきますかと思いまして、なぜあまりそれ以外について説明しないのか説明させてもらいました!!!笑
長々と失礼いたしましたm(__)m気を取り直しまして、シグネットリングの花形!手彫り彫刻の模様をお届けしてまいりましょう。
お二人のイニシャルを組み合わせて”紋章のようなデザイン+模様やモチーフ”で作成させて頂いたモノグラムをシグネットリングへ下書きしていきます。
真ん中にドッシリ構えるのは「OLD ENGLISH(ブラックレターとも呼ばれる)」の書体を参考にしながら描いた「TS」、その左右から包み込むように描いたのはヨーロッパで古くから用いられ、古代ギリシャ時代から建築物等の装飾をはじめとして美術品に多用されてきたモチーフである「アカンサス模様」、そして上部には「お箸」をイメージしたモチーフを描いた、お二人とKUBUSだからこそのモノグラムを作成させて頂きました。
下書きでは書いていない細かい部分の装飾もありますので、モノグラムの全貌が分かる彫刻後の姿もお楽しみに!
KUBUSではペアでお揃いのモノグラムを彫刻する際、フェイスが小さい方から先に彫っていくことがほとんど。それは大きいフェイスの方から先に彫ってしまうと、いざ小さいフェイスへ彫刻する時に「あれ?こんなに小さかったっけ?」と感じてしまうから。それでももちろん彫れないということはありませんが、窮屈さを感じながら彫刻してしまうと仕上がったシグネットリングにもそれが表れてしまうので、僕はそういった順番で彫刻することが多いです。
そうしてまず「13mm×11mm」フェイスへの手彫りが完了しました。
続いて「15mm×13mm」フェイスへ同じモノグラムを手彫り。二つを見比べながら、深く、力強く。
こうやって並べるとフェイスサイズが結構違うでしょう?
それでも同じように彫刻できるかどうかが腕の見せ所なのです。よく”手作業ならではの味”だとか言って、均一でないことを売り文句にしているのを見かけますが、本来の手作業の味とは、手作業だとは到底思えないような出来栄えでありながら、それでもどうしても滲み出てしまう人間味のことだと僕は考えています。
シグネットリングにそれを当てはめてみると、まるで機械で彫ったような精密さでありながら、決して機械ではできない技術でもって手彫りがなされており、しかし、どうしてもゆらぎが生じてしまう部分、つまり、滲み出てしまうその人間味によって温かみや深みを感じさせることで初めて、”手作業ならではの味”があるシグネットリングだと言えるのです。
もちろん、これは一職人としての意見ですから、見る側からすると大した問題ではないのかもしれませんが、僕はそういった気概を持って創り続けていきたい。
おっといけない!野暮ったくなりかけました。笑
スタンプをしてみると、フェイスサイズが異なってもしっかりお揃いに彫刻ができているのがお分かり頂けるかと思います。
古くから美術品に用いられてきた「アカンサス模様」ですが、そのような背景からアカンサスは『芸術』や『技巧』という花言葉を持ちます。2本のアカンサス模様でお二人のイニシャルを包み、”料理”という技術を研ぎ続け二人にしかできない表現をこれからもしていって欲しいという願いを込めました。また、2本揃うことで力を発揮する「お箸」には、二人で支え合いながら生きていく姿を重ね合わせて表現をしました。
仕上げ磨きをしたら遂に完成です!
そして、モノグラムに描いた要素の中でまだ紹介をしていないのがあと一つ。「今回のブログで紹介をするシグネットリングでは”愛”を直接的に表した」と先程お伝えしましたね。ですが、それはどこにどのように入れたか秘密。笑
直接的に表していながら分からないというところにこそ、このモノグラムの意味があるのです。誰かに100%理解される必要はなく、自分たちが大切にしなければならないことを自分たちさえ握りしめ決して離さなければ良いのだというメッセージを込めて。
Tさん、Sちゃん、ご依頼ありがとうございました!お二人の絆を表す指輪の制作を任せてもらえて本当に嬉しかったです。お仕事中は着けられないから、なかなか二人のシグネットリングを着けた姿を見ることができないけれど、その時をとても楽しみにしています^^
それでは、また次のブログでお会いしましょう!KUBUS斎藤でした!
【Gallery】【Pair Signet Rings】Hand Engraved Oval Signet Rings(Sv925)「TS+アカンサス模様+お箸」
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