ご結婚指輪としてのシグネットリング
こんにちは。KUBUSの斎藤です。
なかなかブログやインスタグラムの頻繁な更新を出来ずにいますが、少しでもご依頼品の制作を前進させるべく一日一日を過ごしています。こうして毎日芸術活動の中に身を置いていられることをかけがえなく、有難いことだなぁと感じています。
しかし、僕の場合は毎日工房に篭って創作ばかり行っていると、どうしても考えたり感じたりするために必要なアンテナの感度が弱くなってきたり、そのチューニングがずれてきてしまうような感覚があります。それを調整し研ぎ澄ますために、自分以外の作品やそれを創り出した人物に触れるべく定期的に美術館や博物館へ訪れるようにしています。
今回はSOMPO美術館で行われている展覧会『ゴッホと静物画ー伝統から革新へ』に行ってきました。
言わずと知れたゴッホですが、存命中は思うように絵が売れなかったというのをご存知の方も多いのではないかと思います。(『生涯1点しか作品が売れなかったと言われているが、少なくとも2点は売れていた。』<ゴッホと静物画ー伝統から革新へ>図録 )
現在のゴッホの知名度や彼の作品に付けられた高額な値段からすると、いくら当時の常識では計れないような斬新な作風であったとしても、あまりにも存命中と没後の落差が大きくて存命中に売れた絵が数点であったというのが信じ難く、そして語り継がれている彼の歴史や作品それ自体からも感じさせる苦しみから、そうした遅過ぎる評価に芸術家の端くれとしてやりきれない気持ちになってしまいます。
今回の展覧会で僕は初めてゴッホの作品を間近で見ましたが、そうした苦しみも感じると共に、作品の色彩や力強い筆致などから、それ以上に果敢に自らの表現を追い求め挑戦する姿が浮かんで見えるようで、僕はそうしたゴッホの強い創作意欲に大きな刺激を受けました。
世界的に偉大な芸術家であるゴッホと自分とを並べるのは身の程知らずも甚だしいと思われてしまうかもしれませんが、幸いにも僕はこうして生きている間に作品の価値を決して少なくない人数の方々から認めてもらえていて、それがどれだけ有難いことか改めて実感しています。
周りが何と言おうが、世間一般的にどのように評価されていようが、自分が惹かれる作品を生み出している創り手と同じ時代を生きているのはかけがえのないことだと認識し、見ているだけではなくその創り手が創り続けていけるよう応援をしなければいけません。敢えて”応援をしなければいけない”と言うのは、「KUBUSに注文をくれ」という訳ではなく(もちろんそれも含みますが。笑)、創り手は「創ること=生きること」が決して極端な表現ではない生き物なので、そうした応援がなければあっという間にダメになってしまうからです。作品は人間の命よりも生き続けるかもしれませんが、創り手自身はそうではありません。
芸術はそれを受け取る側がいて初めて芸術として存在し得るということを、創り手はもちろんそれ以外の皆さんも認識している必要があります。創り手以外も芸術の当事者なんです。
芸術を生業としている創り手の一人として、芸術に救われた一人のファンとして、そうした大切なことを改めて握りしめるきっかけをゴッホから貰いました。
さて、今回のブログで紹介をするのは、ご結婚指輪としてご依頼をいただいたシグネットリングです。
ご結婚指輪に選ばれることはまだ比較的珍しいシグネットリングですが、決して突飛ではなくむしろご結婚指輪としても相応しい装身具であることが少しでも伝われば嬉しいです。
制作を進めていくにあたって、まずはリングゲージをお送りし(参考:リングゲージの貸出について)、お二人の号数をお調べいただきました。
KUBUSではこのようにして工房へお越しいただかずとも号数の採寸を行えるような準備を整えていますので、全国どこにお住まいの方でもご安心ください。
シグネットリング本体の形状及び素材はお二人とも「Oval Signet Ring(K10YG)」に。ただ、フェイスサイズ(印台サイズ)を旦那さまは「14mm×12mm」、奥さまは「11mm×10mm」とお二人それぞれのお好みや手指とのバランスに合わせてお選びいただきました。手彫り彫刻についてはまた後ほど。
フェイスサイズ「14mm×12mm」と「11mm×10mm」とでは2~3mm程度の違いのため、あまり差が感じられない程度に微妙な違いなのではないかと思う方もいらしゃるかもしれませんが、指輪のように小さな世界では非常に大きな違いなんです。こちらの写真をご覧になればそれがお分かりいただけるはず。
同じOval形状をフェイス部分に持つ二つですが、このようにフェイスサイズが異なるとフェイス部分だけでなくその他全ての部分に影響を及ぼします。
それはシグネットリングはフェイス部分から始まる全体のリズムが非常に大切だからです。シグネットリングはご覧の通り特徴的な形をしていますが、決して大味なジュエリーではありません。絶妙なバランスの上で成り立っている繊細な装身具です。少しでもリズムを崩してしまうと一気に野暮ったくなってしまいます。
そのため、同じOval形状ならフェイスサイズだけを変えれば良いのではなく、今回であれば「14mm×12mm」と「11mm×10mm」それぞれに合った側面のくびれ加減、腕部分の幅、各部の厚み等々で制作していく必要があります。
そうしてシグネットリング本体の造型作業が完了した後は、いよいよ手彫り彫刻へと移っていきます。ご結婚指輪の場合はご自身のイニシャルをそれぞれ刻むこともありますが、今回はお二人のイニシャルを組み合わせたお揃いのモノグラムを彫刻させていただきました。
「SA」の二文字を組み合わせて”筆記体をもとにした流れるようなデザイン”でオリジナルのモノグラムを作成させていただきました。そのデザインをシグネットリングへ彫刻に備えて下書きしていきます。
フェイスサイズも縦横比も異なる二つのシグネットリングへお揃いのデザインを彫刻するのにはあれこれと気を付けなければなりませんが綺麗に彫れました。
さぁ、仕上げ磨きをしたら遂に完成です!
もちろん、ご結婚指輪ですから二つ揃った写真も。
ご依頼くださったNさまご夫妻、この度は誠に有難うございました。これからのお二人の人生のそばにシグネットリングを迎えていただけたこと、そうした特別な品の制作をお任せいただけたことを光栄に感じています。
創作するのにはかなりのエネルギーを必要とするため、制作者とそれを手にする方との間に自らあれこれ介在させる創り手が少なくないように感じますが、先述の通り、芸術はそれを受け取る側がいて初めて芸術として存在し得ると僕は考えています。だから、なるべくダイレクトにその関係性を感じながら創作活動をしたいというのがKUBUSの姿勢であり、それによって多くの方が芸術に対して当事者意識を持ち、芸術が一部の人達のためだけにあるのではなく、広く開かれた誰しもの生活の中にあるべきものだということを実感してくれる方が一人でも増えたら、どんどんと冷たくなっていく世の中から温もりを守り抜くことができるのではないかと思います。
それでは、また次回のブログでお会いしましょう。もう少し頻繁に更新できるといいのですが、、、。笑 お楽しみに!
KUBUS 斎藤
【Gallery】【Wedding Rings】Hand Engraved Oval Signet Rings(K10YG)「SA」
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