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2024-09-14

新しい家族が増えたことを記念してシグネットリング側面へ追加彫刻

こんにちは。KUBUSの斎藤です。

先日、と言っても数ヶ月前ですがある二つの展覧会へ行ってきました。

一つ目は『カルティエと日本 半世紀のあゆみ「結 MUSUBI」展 ― 美と芸術をめぐる対話』です。

「結 MUSUBI」展会場前での記念撮影

シグネットリングもジュエリーの一つであり、それを生業としているのだから見ておいた方が良いかと行ってみたのですが、僕にはいまいちピンときませんでした、、、。ジュエリー全般が好きな訳ではなく、あくまでも”シグネットリング”にぞっこんな僕だからなのかもしれません。また、開かれた芸術というよりも身内に向けた発表会的な展示のように感じてしまったのも要因の一つだと思います。

話題の映画を観に行って全く楽しめなかった経験はありませんか?同じ会場で観ていた他のお客さんも、帰宅中にレビューを調べてみても、みんな素晴らしい作品だとホクホクしている様子なのに自分には全くピンと来ない時。自分の感性がおかしいのかと疑ってしまい、そしてちょっぴり寂しいあの感じ。そんな感覚になりました。笑

でも、気にしない気にしない。別に誰も悪くないんです。ただ相性が良くなかっただけ。気を取り直してその日二つ目の展覧会へ!こちらの方が本命です。

それは『内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙』。

写本展会場写真

「写本」とは・・・『印刷技術のなかった中世ヨーロッパにおいて、写本は人々の信仰を支え、知の伝達を担う主要な媒体でした。羊や子牛などの動物の皮を薄く加工して作った紙に人の手でテキストを筆写し、膨大な時間と労力をかけて制作される写本は、ときに非常な贅沢品となりました。またなかには、華やかな彩飾が施され、一級の美術作品へと昇華を遂げている例もしばしば見られます。』(本展覧会図録「文字と絵の小宇宙」前書きより引用)

特に文字への装飾は、KUBUSが普段から行っているモノグラムデザインの作成と大いに共通します。その証拠に僕がモノグラムを描く時には写本を参考にすることも多く、それを間近に観られるということですごく楽しみにしていました。

生で観る写本の数々は思い描いていたより随分小さく、驚くほどの細密な装飾に目玉が飛び出そうになりました(自分は更に小さなところへ装飾をしているというのに 笑)。

展示作品「ガブリエル・デ・ケーロの貴族身分証明書」の装飾部分拡大写真

展示作品「ガブリエル・デ・ケーロの貴族身分証明書」と「カスティーリャ女王フアナ1世の印章」

装飾の細かさや美しさ、デザインの独創性だけでなく、依頼主の美術的な期待に応えながらそこへ綴られている文章の内容を伝えようとする懸命さに胸を打たれました。独りよがりな芸術ではなく、伝えようとする芸術の健気さからしか放たれない輝きは、僕もKUBUSの作品で込めようとしているものであり、込められていると信じている輝きです。

偉大な先輩たちの作品に圧倒される素晴らしい展覧会でした。

今回のブログで紹介をするのは、いつものように新たに制作した作品ではなく、以前制作させていただいたシグネットリングへの追加彫刻について。基本的にお持ち込み品への彫刻は承っていませんがKUBUS作品は例外です。大歓迎で追加彫刻をさせていただいています。

その作品がこちら。

ご家族の絆を表すシグネットリング
ご家族の絆を表すシグネットリング(2021年12月18日のブログ)』

こちらはフェイスへご夫婦のイニシャルを組み合わせたモノグラム、左側面へお子さんのイニシャル、そして裏面へ苗字のイニシャルを手彫りさせていただいたシグネットリングでした。

この度お二人目のお子さんが誕生されたということで、それを記念して新たに右側面へお二人目のお子さんのイニシャルを彫刻させていただきました。

もちろんオリジナルのデザインを彫刻していきますから、そのデザインの作成にはお時間を頂く必要があります。ただ、その間ずっとシグネットリングをお預かりしてしまっては着用できない期間が長くなってしまいますので、まずは彫刻デザインの作成を行い、それが決定してからシグネットリングをお預かりしました。

お預かりしたシグネットリング

普段ブログに掲載しているのは仕上がった直後の写真ばかりですが、こうして着用による傷がついたシグネットリングも物凄く格好良いですよね。むしろこうした姿こそシグネットリングらしいと僕は思っています。シグネットリングは飾っておく芸術品ではなく、身に着けて、使ってなんぼの芸術品です。「いつも着けていただけているのだなぁ」「あれからもう数年経ったのだなぁ」と思い耽っていたらじんと来てしまいました。

いけないいけない。手を動かさなくては。

それでは、早速彫刻開始です!

側面彫刻中の様子

フェイスに負けないほどの迫力を持った彫刻ができました。

「M+ブルーベリー」モノグラム彫刻完了

「M+ブルーベリー」モノグラム彫刻完了_拡大

彫刻したのはお二人目のお子さんのイニシャル「M」と「ブルーベリー」を組み合わせて作成したモノグラム。ブルーベリーは、お子さんのお名前に込めた意味合いとブルーベリーの花言葉が通ずるとご依頼くださった方から教えていただいたアイデアです。

ブルーベリーの三つの実には、命名の由来である「真心」「誠意」「誠実」の意味を込め、その実を守っているようなデザインにすることで、それらを誰かに傷つけられたり奪われたりしてしまうことがないよう願いを込めました。

側面でシーリングスタンプをすることはないと思いますが、それもできるほどの彫刻を行い、モノグラムに込めた願いを更に強く表現していきました。

「M+ブルーベリー」モノグラム_スタンプ

そしてこちらの彫刻、実はこんなに小さいんです。

米粒との大きさ比較

測ってみたところモノグラム全体は縦横7.3mm程度でした。どうりでルーペを使って彫っていても見えにくいわけです。

それだけ細かくても、ブルーベリーの実のところもしっかり立体的に表現しました。

ブルーベリーの実拡大

そして、以前の制作時に行った側面彫刻にも少し手を加えてバランスを取るというご依頼も同時に頂いていました。

こちらが以前の側面彫刻。

以前の側面彫刻「M」

「M」のデザインにも若干の変更を加えながら、一人目のお子さんのお名前に由来する「稲穂」を組み合わせて作成したモノグラムを彫刻していきました。

「M+稲穂」彫刻完了

「M+稲穂」彫刻完了_拡大

「M+稲穂」彫刻完了_スタンプ

「M+稲穂」彫刻完了_スタンプ_拡大

風になびいて膨らむようなデザインにすることで、活発な様子や成長し発展していく様子を表現しました。

各部への彫刻を終え、いよいよ仕上げです。着用によってついた傷も歴史ですから、なるべくそれを残しながら。

これにて全ての工程完了です!!

新しい家族が増えたことを記念してシグネットリング側面へ追加彫刻_完成写真_M&ブルーベリー

新しい家族が増えたことを記念してシグネットリング側面へ追加彫刻_完成写真_M&ブルーベリー2

新しい家族が増えたことを記念してシグネットリング側面へ追加彫刻_完成写真_M&稲穂

新しい家族が増えたことを記念してシグネットリング側面へ追加彫刻_完成写真_M&稲穂2

新しい家族が増えたことを記念してシグネットリング側面へ追加彫刻_完成_正面

ご依頼くださったSさま、この度もありがとうございました!そしてお二人目のお子さんの誕生、おめでとうございます!!『想像以上の仕上がり』とのお言葉、大変光栄です。有難うございます。私もこうして再びSさまのシグネットリングへ歴史を刻むことができて非常に嬉しく感じています。数年前に制作した自らの作品と久しぶりに対面し、そこへ現在の技術で新たに彫刻を行えたのも一人の制作者として貴重な経験でした。お届けしたシグネットリングのように、これからもご家族皆さんで作る輪が穏やかなものとなるよう願っています。

自分以外の誰かの人生における大切なタイミングに参加させていただくことができ、そしてその中で自らの進歩も感じられるなんて幸せです。

最後までご覧いただきありがとうございました!また次回のブログでお会いしましょう。


KUBUS 斎藤

【Gallery】Hand Engraved Rectangle Signet Ring「M+ブルーベリー」+「M+稲穂」(K18YG)

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