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2022-07-21

じいちゃんへのシグネットリング

こんにちは。KUBUSの斎藤です。

暑いですねー。昨日車のオイル交換をしたのですが、それだけで汗だくのヘトヘト。今週は庭の雑草と対決しなきゃいけないし、きっとまたびしょびしょになりながら外で作業です。笑

水分と塩分補給しながら暑い夏を乗り越えましょう!

今回のブログで紹介をするのは、僕の祖父へ創ったシグネットリング。

せっかくKUBUSを生業にしているのだから、大好きなじいちゃんにKUBUSのシグネットリングを着けて欲しくて、「指輪作るから号数教えて?」と作り手側から押し付けるように始まった制作。笑

リングゲージを持って行って測らせてもらおうと思っていたら、なんとじいちゃんリングゲージを持っているということで自分で測って号数を教えてくれました!(指輪着けるの初めてって言ってたのにリングゲージ持ってるってことは、シグネットリング職人の孫にいつか作ってもらおうと思ってたのかな?ニヤリ。笑)

じいちゃんからの希望は「あんまり派手なのは嫌だからシルバー」「着けてて邪魔になるのは嫌だ」という、まるで”こんなシグネットリングは嫌だ”大喜利。笑

大丈夫よ。全部叶えた上で最高のシグネットリングにするから^^

シグネットリングの作り方には様々な方法がありますが、今回は鍛造をチョイス。

こんな姿からスタートしていきました。

チョコ皿に乗せた銀の端材たち

Silver925の端材たちを熱して溶かして、ちょっと叩いたら下ごしらえ完了。

溶解後の銀

ここから金槌を使ってシグネットリングの形を作っていきます。叩いていくとシルバーが硬くなっていくのですが、硬さと脆さは背中合わせ。「もうこれ以上わたしゃ伸びないぞ」とお堅くなっているのに、カン!と金槌を打ってしまうと割れたり折れてしまいます。硬くなってきたなと感じたら、焼きなましと呼ばれる工程を行い、ご機嫌を伺いながら(硬度をコントロールしながら)伸ばしたり造型していきます。

鍛造作業中の姿

叩いては焼きなまし、また叩いては焼きなまし、、、。それを繰り返しながら段々とシグネットリングの姿に近づいてきました。

鍛造しシグネットリングの姿に伸びた様子

ぐりっと丸めて両端をロウ付け。

丸めてロウ付け

輪っかになりました。

おっと!そういえば、なぜ鍛造を採用したのかお伝えするのを忘れていましたね。

先程もお伝えしたように、シグネットリングの作り方には様々な方法があります。KUBUSでは鍛造や鋳造、地金加工(切った貼ったしてパズルのように作る方法)、あとは六角ナットから削り出して作ることなんかもあります。

僕はこの一つ一つの作り方に拘りはありません。と言うと、何だか急に突き放したみたいになってしまいますが、そうじゃない。

その時々でどんなシグネットリングを生み出したいかに合わせて、最適な製法を選択し、駆使できることが大切だと僕は考えています。手の込んだ作り方や難度の高い作り方をすれば、どうしても皆さんにお届けするにあたって価格が上がってしまいます。

一つの製法をブランドにしているお店を時々見かけますが、僕からすると、製法はあくまでも手段であって目的に置くものではないと思うんです。

「うちはこの作り方しかしません!」と意固地になっていては届けられる人がすごく限定されてしまうから、”ご依頼をくださる方とKUBUSにとって最高のシグネットリングを生み出す”ということを目的に見据え、その時々で最適な手段を選べるのが大切。そのために、KUBUSではシグネットリングを生み出すためのあらゆる製法を技術として持ち、日々磨き続けています。

「ねぇ、KUBUS。じゃあ普段、手彫りだ手彫りだと言っているのはどういうこと?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん、拘りを持って手彫りを行っていますが、手彫りだけに拘っている訳ではありません。これ重要。

これまで制作をさせて頂いてきたシグネットリングたちをご覧になればお分かり頂けると思いますが、機械彫りに適したデザインがご希望の方からのご依頼であれば機械彫りを提案させて頂きます。中には「機械彫りが良い」という方もいらっしゃいます。手彫りの方が絶対格好良いと僕が思う時にはそれをお伝えしますし、もちろん、勝手に手彫り予定だったのを機械彫りに変えるなんてこともしません。

「手彫り」と「機械彫り」、この二つだって手段に過ぎません。手彫りの方がご依頼くださった方とKUBUSの想いや表現を目一杯でき、最高のシグネットリングにできると感じるオーダーを頂くことがほとんどだから、手彫りをしたシグネットリングを多く制作させて頂いているということなんです。

ほら、またいつものように熱くなってしまった。汗

では、本題。どうして今回鍛造を採用したのか。

それは、じいちゃんから『着けてて邪魔になるのは嫌だ』と聞いていたから。

着用時に負担にならないようなるべく薄いシグネットリングにしたい。でも、手彫りをすると更に厚みが薄くなってしまう。ましてや紋章を彫る(おっと、ネタバレ。笑)となると、かなり深く彫り込む必要がある。それならキリキリまで薄くしても強度を持ったシグネットリングにすることができる”鍛造”を選ぼう。ということです。

そうして鍛造である程度の形を作りましたが、金槌で造型すると言っても、細部まで作り込みたい僕にとっては不十分なので、本格的な造型作業はやはりヤスリに持ち替えて行っていきます。

じいちゃんの手に似合うはずだと直感した形に。薄めなのにのっぺりとしないよう、温かみとキリッと格好良い姿が共存するシグネットリングに。

造型作業完了

表面をある程度まで研磨したら、続いて手彫りです。

どんなデザインにするかまるっと任せてもらったので、「じいちゃんにこんなシグネットリングを着けて欲しい」10000%でデザインを作成しました。

それをシグネットリングに下書きしたのがこちら!とお見せしたいところですが、今回作成したのは紋章。彫ったところに更にデザインを彫り込んでいくので、最初にお見せするのはこちら。

シグネットリングへ紋章を下書き

まずは盾(エスカッシャン)の部分を彫り込んでいきます。

盾を彫り込んだ状態

彫刻台とタガネ

続いて、冠(サークレット)を彫り込むと、、、。

冠を彫り込んだ様子

紋章らしくなってきましたね^^

もちろん、これでは終わりません。あくまでも、これでようやくキャンバスが整ったという感じ。

エスカッシャンの中にモノグラムを彫り、サークレットへ装飾を加えて、じいちゃんのために作成した紋章が遂に姿を表します。

じいちゃんの紋章手彫り完了

じいちゃんの紋章のスタンプ

シーリングスタンプ前の姿

全ての意味は僕とじいちゃんだけの秘密。ですが、皆さんにも少し紹介をさせて頂きますね。

盾の中に刻んだのはじいちゃんの名前の漢字を組み合わせ、ある一文字の漢字を表現したモノグラム。それはばあちゃんの名前であり、同時に二人の幸せな姿や二人のおかげで両親や僕や弟が幸せに暮らすことができていることへの感謝を込めて。

その頭に冠したのは単なる冠ではありません。じいちゃんのブランドの社名に由来する5本の矢を束ねて作った冠で、それはじいちゃんの家紋にも由来するもの。じいちゃんの功績とルーツを冠したサークレットで二人に祝福と感謝を。

仕上げ磨きをしたら遂に完成です!!

じいちゃんへのシグネットリング完成写真1

じいちゃんへのシグネットリング完成写真2

じいちゃんへのシグネットリング完成写真3

僕の一方的な「こんなシグネットリングを着けて欲しい」をこれでもかと詰め込んでしまったし、僕の仕事を手元で直に見てもらうのは初めてだから、届けるまではドキドキでした。

ラッピングを解き、いよいよシグネットリングとご対面。

「ばあちゃんの名前が入ってるじゃんか!嬉しいよ。」

「独学でここまで出来るようになったなんてすごいな。良く頑張ってるな。」

ばあちゃんの名前が入っていることに涙ぐみながら喜んでくれたのがすごく嬉しかった。頑張ってきて本当に良かった。

ブログでこんなこと普段書かないけど、正直、誰もやっていないスタイルで、尚且つシグネットリングという恐ろしく長く深い歴史を持つ指輪に挑み続けるのは茨だらけ壁だらけ。笑 ぶつかる度にボロボロになるし、なんてとこに足を踏み入れてしまったんだと頭を抱えることだってあります。でも、シグネットリングを通してならこんな僕でも感動を生み出せるし、それによって世界を昨日より少しでも平和にできると信じてるから、ボロッボロになりながらぶつかり続けています。

それが報われたような気がして、なかなか振り返ってくれなかったシグネットリングの神様が、「いつも見てるよ。そのまま行け、KUBUS。」とやっとちょっと微笑んでくれたような気がします。

じいちゃんが喜んでくれて、感動してくれて、とにかく嬉しかった。

ばあちゃんの名前が入っていることにはすぐに気付いてくれたのに、自分の名前が入っているのは僕が説明するまで分かってくれなかったけどね。笑

じいちゃんが着けてくれているこの写真は、僕の宝物です。

じいちゃんの着用写真

じいちゃんの着用写真アップ

じいちゃん、最高に格好良いぜ!!沢山着けてね!いつも有難う!!!

早くシグネットリング着けて欲しくて紋章状(KUBUS College of Arms)を渡していないことに気付きました。笑 今度作って持ってくね(^^)

シグネットリングで平和を創ることが出来るのは何も大袈裟な話ではないと、じいちゃんへのシグネットリングの制作を通して改めて実感できました。そして、とてつもない可能性があり、涙が出る程に素晴らしいシグネットリングという装身具を更に大好きになりました。KUBUSはこれからも平和を創り続けていきます。


KUBUS 斎藤柊真

【Gallery】Hand Engraved Thin Rectangle Signet Ring「Coat of Arms」(Sv925)

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