大切な20周年を記念したシグネットリング
こんにちは。KUBUSの斎藤です。
春ですね〜。庭には椿?山茶花?綺麗な花が咲いていました^ ^
暖かくなってきたのは嬉しいのですが、花粉症の僕にとっては苦しい季節、、、。薬を飲むも力虚しくグズグズです。笑
そんな中、珍しく作業場を飛び出してある所へ行ってきました。どこへ向かったのかと言いますと、こちら!
東京ミッドタウンで開催されている『メンズリング イヴ・ガストゥコレクション』へ行ってきました。
ここでは語りきれない程に感想がありますが、物凄くシンプルにお伝えしますと、、、最高でした!シグネットリングはやっぱり格好良い!!
「それでもプロか!笑」とツッコミを入れられてしまいそうですが、シグネットリングの創り手としての目線を忘れ、シグネットリングに魅了されている一人のファンとして興奮してしまう程にくらってしまったんです。
シグネットリング展ではないので、その他の指輪の方が沢山展示されていたのですが、会場にいたほとんどの時間をいくつかあるシグネットリングの前にかじりつき、「そこをもうちょっと見せておくれ。そこにはどんな意味が込められていてどんな風にどんな姿で創っていたの?そこに込められているパワーをくれ〜!!!!」と夢中になるあまり、気が付くとマスクの中では口をポカーンと空けていました。
いつも言っていますが、”シグネットリングは紳士にのみ許された指輪”だなんてまるで意味の無い枠組み、僕は好きではありません。もっと言うと、大嫌いです。
着ける人の性別やその階級を限定して捉えているのは、決してシグネットリングを創っている側ではなく、シグネットリングそれ自体でもありません。外から見てシグネットリングをカテゴライズして何とか理解しようとした悪あがきの結果として、そのようなツマラナイ限定的で排他的なレッテルを貼られてしまっているだけなんです。
今までそれを伝えようともがいてきましたが、僕はこの展覧会で実際に歴史的なシグネットリングを間近に見て、その姿を応援されたような気持ちになりました。
シグネットリングは一言で表すことができるような単純なものではなく、シグネットリングがこの世に誕生してから現代に至るまでのその恐ろしく長い時間の分だけ、文化的にも歴史的にもその意味は深くなり続けていて、創り出してきたジュエラーたち、身に着けてきた人々、その数だけシグネットリングに込められてきた想いがあるんです。それを一言で表現できる訳がありませんし、どれだけの言葉を並べたって表現をしきれるはずがありません。だから魅力的なんです。だから僕は創っていますし、皆さんに届け続けたい。
この展覧会で頂いた本の中にこんな一節がありました。
『指輪は―結婚指輪やシグネットリングとその貴族的な紋章という明らかな例外を除いて―、、、』
つまり、シグネットリングは結婚指輪と並ぶ程に重要な意味を持った指輪であるということです。これは何もKUBUSだけが言っていることではなく、現代でようやくそのように捉えられるようになったということでもありません。
もっと言えば、”結婚指輪”という言葉はその見た目を指すものではありませんが、”シグネットリング”は「署名としてのイニシャルや紋章等が刻まれた指輪、もしくは、それらを刻むための形をした指輪」といったように見た目も表す言葉です。結婚指輪という重要な意味を持った指輪と並ぶ程でありながら、より具体的にその姿をも表しているということから、シグネットリングがどれだけ重要な立場にあるかがお分かり頂けるかと思います。
シグネットリングは着ける人を選ぶような冷たい指輪ではない。着ける人が選びさえすれば、温かく、そして強く抱きしめてくれる。それを信じてやまなかったのは自分だけじゃなかったんだ。なんだか勝手に「それを表現するのは君の番だ。シグネットリングを頼んだぞ。」と偉大な先輩方に背中を押されたような気がしています。
まだまだここでは書ききれない程の展覧会の感想がありますが、それはKUBUS RADIOで後日話してみようかと考えています。
今回のブログで紹介をするのは、重要な意味を抱きかかえながらまた一つこの世の中に誕生したシグネットリング。
ご依頼をくださった方にとって大切な20周年を記念するシグネットリングを制作させて頂きました。
形状は「13mm×11mmフェイスのOvalシェイプ」、素材は「K18YG」。シグネットリングはフェイスの形状やそのサイズに注目がいきがちですが、全体の絶妙なバランスによって成り立つ繊細な指輪です。だから、納得できる姿へと形作っていくためには手作業でなければならないと僕は考えています。
勘違いをして欲しくないのは「手作業=良い」ではないということ。魅力的なシグネットリングを創るための方法としてフィットしていると感じるのが、たまたま手作業であったからそれを採用しているというだけ。”あえて”手間のかかる手作業を選んでいるのではないんです。全ては最高のシグネットリングを生み出すためにやっていること。
そうして造型作業を完了した姿がこちら。
続いて、表面を紙ヤスリでいくつもの番手を重ねながら研磨していきます。研磨に関しても、機械ではなく手作業で行うのは「手作業=良い」からではなくて、その微妙で絶妙なバランスの上でようやく成り立つシグネットリングだから、結果的に手作業で少しずつ丁寧に研磨をする必要があると判断をしたからです。「もういいよ!」と頭を抱えられてしまいそうですが、大事なことなので”あえて”言ってみました。笑
研磨ができたら彫刻台へセット。ご希望を伺いながら意味を込めて作成し、提案させて頂いたモノグラムをシグネットリングへ下書きしていきます。そのデザインがこちら。
イニシャル「FK」と「十字架」を組み合わせたモノグラムです。「なぜシグネットリングのオーダーをくださったのか」「そして、そこにどんな意味を込めたいか」、こちらからそれを押し付けがましくお聞きすることはありませんが、KUBUSにオーダーをくださる方の多くは「KUBUS、頼んだよ」とそれを教えてくださります。本当に有難いです。今回、こちらのシグネットリングをオーダーしてくださった方からもそれをお伝え頂き、そのお陰でこちらのモノグラムを描くことができました。
やりとりをする中で、「FK」のイニシャルに込められている意味を教えて頂き、それをヒントに様々な資料を調べていくと、ある映画に出会うことができました。その映画にはなんと、シグネットリングでスタンプをするシーンも描かれていて、「こうしてオーダーを頂けたのは運命だ!」と勝手に嬉しくなってしまいました(^^)
その映画から感じたのは、”受けるよりも与える”ということ。こうして言うのは簡単でも、実際にそれを行動に移すためには優しさや強さが必要だと僕は思います。そして、それを自らの中に留めておくだけでなく、周りにも伝えていくためには勇敢さも必要であるということをこの映画から学びました。
まさに、”受けるよりも与える”をこちらのシグネットリングをオーダーしてくださった方から僕は沢山して頂きました。ご依頼を頂いてからお届けするまでの間に暑中見舞いやクリスマスカードを贈ってくださったり、僕が着けている“Full Coat of Arms”紋章一式を手彫りしたシグネットリングには、その方から教えて頂いた「ジュエリー職人の守護聖人」に由来するモチーフを紋章の中に込めており、それがなければ僕の紋章が完成することはありませんでした。
今回ご依頼を頂き描いたモノグラムに含まれている「FK」のイニシャルは、劇中に登場する人物に由来があるオーダーしてくださった方のもう一つの大切なお名前を意味するもの。その人物とオーダーくださった方から感じる空気感を掛け合わせて表現をさせて頂いたのがこちらのモノグラムです。
モノグラムに込めた意味を更に深めるように、シグネットリングへ手彫りで刻んでいきます。
力強く、繊細に。
そうして彫り込むことができた姿がこちら。
角度を変えて見てみると、その彫りの深さがお分かり頂けるかと思います。
もちろん、彫りが深ければそれで良いということではありません。このシグネットリングで表したいことを手彫りで表現するためにはこの深さが必要だったということです。
シグネットリングで用いる手彫りの技術である”インタリオ(沈み彫り)”は、スタンプをした時に立体的な姿となって現れるのがその魅力の一つです。
造型作業や研磨、手彫り、その一つ一つを手作業で行なってきた点がようやく繋がり、翼をはためかせ堂々とこの世に舞い降りたシグネットリングの姿がこちらです。
ご依頼をくださったSさん、本当に有難うございました!実際にKUBUSのシグネットリングを着けてくださった方から『既製品が主の今の時代だからこそ斎藤さんの仕事はとても価値のあるもの』というお言葉、そしてマイペースで頑張ってというエールを頂けたことが物凄く嬉しいですし、励みになります。改めて、20周年おめでとうございます!これからのSさんの人生にKUBUSのシグネットリングを迎えて頂けて光栄です^^
やっぱりシグネットリングは最高に魅力的です。こうしてオーダーメイドで表現をするというのはもしかすると時代に逆行していることなのかもしれません。ですが、偉大なシグネットリング職人の先輩方が繋いできてくれた文化を絶えさせる訳にはいきませんし、負けてなどいられません。シグネットリングの長い歴史に敬意を持って、KUBUSがそれを超えていきます。
最後に、こちらのシグネットリングをご依頼をくださった方から頂いた素敵なご着用写真と、また一つシグネットリングで表現する者として成長した日に撮影した僕の着用写真を。僕たちがシグネットリング仲間になったことを記念して。
KUBUS 斎藤
【Gallery】Hand Engraved Oval Signet Ring「FK,Cross」(K18YG)
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