将来息子さんへ引き継いでいく魂のシグネットリング
こんにちは。KUBUSの斎藤です。
最近はなかなか美術館へ行く時間を作れていないため、前回のブログのオープニングトークと同様に数ヶ月前の美術館探訪についてご依頼品紹介の前に話していきますよ〜。
先日、東京国立近代美術館で8月25日まで開催されていた『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』へ行ってきました。
パリ市立近代美術館と東京国立近代美術館、大阪中之島美術館の3つの美術館から、あらゆるテーマやコンセプトに応じて共通点を持つ作品を3つずつ展示していくといった面白い企画でした。
一つ一つはそれぞれ以前から知っていても関連させて考えたことはなかった作品や作家たちが、ある角度から捉え直してみると新たな共通点が浮かび上がり、それによって作品同士が繋がっていく体験は非常に興味深かったです。別物だと思っていた個々の知識やアイデアが、ある時「シュピーン!」と繋がって新しい境地へ持ち上げられる時の浮遊感に似た気持ち良さがありました。
この展覧会へ行ったのは、実はそうした面白い取り組みに惹かれたからではなく、二人の画家の作品に会いに行くためでした。
その画家はモーリス・ユトリロと佐伯祐三です。
ユトリロは以前のブログ『イニシャルと家紋を組み合わせたシグネットリング』のオープニングトークで書いた宇都宮美術館での出会いをきっかけに、すっかり惹きつけられてしまった画家です。
ユトリロの画集を眺めたりインターネットで調べてみたりしていたところ、同じくパリの街を舞台に絵画を制作し、ユトリロからも影響を受けたという日本人の画家の作品を目にしました。PCの画面越しにも伝わってくる強烈なパワーに圧倒され、初めて作品を生で観る前に画集を買ってしまいました(画集といってもポケットタイプのものですが。日経ポケット・ギャラリー、おすすめです!)。
そんな二人の作品が、しかも並んで飾られているところを観られるというのが今回の僕の目的でした。
ユトリロとの再会も、佐伯祐三との初めましても最高の経験でした。大阪中之島美術館では今年の12月8日まで開催されているようなので、まだチェックできてないという方はもし機会があれば体験してみてください。
それでは今回もご依頼品紹介へと参りましょう!
今回紹介するのは「将来息子さんへ引き継いでいく魂のシグネットリング」。
ジュエリーは人の一生以上にその形を留められます。僕がいつかこの命を全うした後でも、壊されたり溶かされたりしなければ作品は生き続けることができる。だから、恥ずかしい仕事は決してできないといつも気を引き締めて一つ一つのご依頼品制作に取り組んでいます。今回のように将来お子さんへ引き継ぐつもりだと事前に伺っていると、作品が少なくとも2代にわたって生きていけるだろうと道が見えるので、どうしても余計に力が入ってしまいます。
お持ちの指輪を着用されている手指のお写真をヒントにメールで打ち合わせを重ねていき、下記の内容でご依頼を頂けることとなりました。
- 形状:Mellow Square
- フェイスサイズ:13mm×13mm
- 素材:K18YG
- 手彫りモノグラム彫刻:「M」”ブラックレター書体をもとにしたデザイン”
まずはいつものようにシグネットリング本体の造型作業が完了した状態の写真からスタート。
これまでと今回のご依頼で特徴が異なるのがモノグラムデザインです。今回はKUBUSにおけるモノグラムデザインの方向性を説明したページ『モノグラムの手彫り彫刻』からご希望のデザインの雰囲気を指定されるのではなく、お好きな特定の書体”ブラックレター”を起点にオリジナルのデザインを作成させていただきました。
ブラックレターと一口に言ってもその中にも様々な種類がありますが、今回デザインしていく「M」は基本的にブラックレターではこちらの例のように左右非対称になるのが一般的です。
シグネットリングへ彫刻していくにあたって、その度合いが僕にとってはどうも気持ち良くなかったので、左右対称に近付け、更に装飾的な要素も足して、『モノグラムの手彫り彫刻』で言うところの”③紋章のようなデザイン”の雰囲気になるようデザインを作成させていただきました。
ご提案し、無事に合格通知をもらえたのがこちらのデザインです。
それでは、いざ手彫り彫刻。
細部も彫り込んでいきます。
無事に彫れました。
仕上げの研磨をしたら遂に完成です!!!
ご依頼くださったMさん、この度は誠に有難うございました!『想像をはるかに超えました』『感動しました』とのお言葉のおかげで、それまでの制作中の苦労が全て吹き飛びました!仕上がりまで長期間お待たせしてしまいましたが、最後まで辛抱強く、そして制作者である僕をいつも尊重していただけたおかげでこうして形にすることができました。本当に有難うございました。いつか息子さんへ引き継ぐその時までシグネットリングをどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
お送りいただいたお写真を皆さんにもお裾分け。
なんて素敵な写真なんでしょう。このぷにぷにの丸々した可愛らしい手にいつかシグネットリングが輝くと想像しただけで胸が弾みます。誰かの歴史や幸せを作ることのできる仕事をさせてもらえているのだと改めて実感しています。有り難い。
今回のブログのタイトルにある「魂のシグネットリング」は、こちらのシグネットリングをご依頼くださったMさまから名付けていただきました。
シグネットリングを通して何を表現したいか、どんな意味や想いを込めたいか、といったことを話し合う際には、真っ直ぐ過ぎて普段なら小っ恥ずかしくて言えないような話題になる場合もあります。でも、シグネットリングを間に置くと不思議と話せてしまうんです。それはご依頼くださる方も僕も特別なシグネットリングにすることに夢中になっているからだと思います。そのような中で行われるコミュニケーションには温もりがあって、それを核に持つからKUBUSのシグネットリングは「魂のシグネットリング」なのだと思います。
今回のブログも最後まで読んでくださりありがとうございました!こちらのシグネットリングの彫刻の様子を映像でもご覧いただけます。併せてチェックしてみてくださいね!
KUBUS 斎藤
【Gallery】Hand Engraved Mellow Square Signet Ring「M」(K18YG)
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